敷金の定義
敷金とは、判例により、「
賃借人の賃貸人に対する賃料債務その他一切の
賃貸借契約による債務を担保する目的で賃借人から賃貸人に交付される
金銭であって、賃貸借契約終了の際に賃貸人から賃借人に返還されるべき
ものをいう。」と定義されます。
敷金返還請求権の発生する時期
敷金返還請求権は、賃貸借終了後家屋明渡完了の時においてそれまでに
生じた右被担保債権を控除しなお残額がある場合に、その残額につき具体
的に発生するものと解すべきである。(昭和48年2月2日最高裁判決)
よって、賃貸人の敷金の返還債務と賃借人の目的不動産の明け渡し債務と
は同時履行の関係に立たないことになります。
よって、「敷金を返還しないと賃借した建物を明け渡さない」と主張することは
できません。
同時履行とは
双務契約(当事者の双方が相互に対価的な債務を負担する契約)において当
事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の
履行を拒むことができる権利(抗弁権)があります。(民法533条)
その権利を同時履行の抗弁権といいます。
また、賃借人の敷金返還請求権は、賃貸借契約終了後であっても、目的不動
産の明渡が完了するまで発生しません。
敷金の返還の範囲(敷金の担保する範囲)
敷金返還請求権は、賃貸借終了後家屋明渡完了の時においてそれまでに生
じた右被担保債権を控除しなお残額がある場合に、その残額につき具体的に
発生するものと解すべきである。(昭和48年2月2日最高裁判決)
判例では上記のように大きな範囲で判示されていますが、敷金が担保する範
囲(敷金を返還する際に敷金から控除して使用して良いとする目的の範囲)の
細目については、法令で細かいところを具体的に示したものはありません。
判例や国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に指針や基
準が示されています。
具体的には、敷金は、原状回復費用や滞納賃料(賃料相当額の損害金)に
充当することが認められています。
原状回復の範囲については、判例でも様々なケースで多く出ていますが、
国土交通省のガイドラインでは、『原状回復を「賃借人の居住、使用により発
生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、そ
の他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義
し、その費用は賃借人負担としました。
そして、いわゆる経年変化、通常の使用による損耗等の修繕費用は、賃料に
含まれるものとしました。』(以上国土交通省ホームページより)
よって、「上記以外での修繕費用等に資金を充当するから資金を返還する際
にその部分を控除する」といった(賃貸人の)主張は原則、認められないこと
になります。
賃借人の原状回復義務について
賃借人は、賃貸借契約終了時に賃借した建物の原状を回復する義務があり
ます。(民法616条、同法598条)
原状回復とは、上記国土交通省ガイドラインで示されているように、「入居した
ときと同じ状態に戻す」ということではありません。
判例や学説では、「賃借人が賃借物を契約により定められた使用方法に従い
、かつ社会通念上通常の使用方法により使用していた状態であれば、使用開
始時の状態よりも悪くなっていたとしてもそのままの状態で返還すればよい」と
しています。
建物の汚損や損耗が経年変化による自然的なものや、通常使用による損耗
(通常損耗)であれば、賃借人の原状回復の範囲に含まれず、賃貸人の負担
になります。
しかし、賃借人の故意、過失通常でない使用方法等により、汚損や破損が生
じた場合には賃借人の原状回復の範囲内であり、敷金から控除されるか、敷
金よりも多い金額であれば費用を請求されることになります。
敷引き特約について
「敷引き」とは、賃貸借契約締結時に預けた敷金(保証金)から退去時に賃借
物件の損耗に関係なく一定額を償却する(返却しない)ことで、その特約条項
を敷引き特約といいます。
この敷引き特約は有効なのでしょうか?
敷引きが有効かどうかで裁判で争われた事件で最高裁が判決を出しています。
平成23年3月24日最高裁判決は、下記のように判示して、「敷引き金の額が
賃料月額の2倍ないし3,5倍にとどまっている場合に無効であると言うことは
できない」として、高額でないという条件下で敷引きが有効であるとしています。
判決要旨抜粋
「賃借人が社会通念上の使用をした場合に生ずる損耗や経年により自然に
生ずる損耗の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等の額等
に照らし、敷引金の額が高額に過ぎると評価するべきものであるときは〜
中略〜信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであって、消費
者契約法10条により無効となる。
〜敷引金の額が賃料月額の2倍弱ないし3,5倍強にとどまっていること、〜
更新料の支払い義務を負うほかには一時金を支払う義務を負っていないこ
となど判示の事実関係の下では敷引金の額が高額に過ぎると評価すること
は出来ず、消費者契約法10条により無効であるということはできない」
敷金返還請求
賃貸借契約終了後、建物の明渡を完了した時点で、賃貸人が敷金を返還
しない。
また、「敷金は部屋のクリーニングや修繕に使用するので返還しない、若し
くは一部は変換しない」と言われた際は、上記の賃借人の原状回復の範囲
に含まれない場合はその含まれない範囲で敷金の返還を請求することがで
きます。
「敷金の返還を請求したい」、又は「敷金の返還を請求したいんだけど、どの
程度までの範囲を返還請求したらよいのかわからない」といった方はお気軽
に当事務所にご相談ください。
敷金返還請求の問題について、よくある質問、知りたいことについてわかり
やすく解説します。
Q1賃貸人の地位が譲渡された場合の敷金の返還請求
Aさんを賃貸人として賃貸借契約期間中に、家主(賃貸人)がAさんからBさ
んに変わりました。
(賃貸物件であるアパートをAさんがBさんに売却した)
アパートを退去する時にBさんに敷金の返還を求めたところ、Bさんは「私は
Aさんからアナタの敷金を預かっていない。
だから私はアナタに敷金を返還する義務は無い。
Aさんから返してもらってくれ」と答え、敷金を返してくれません。
Aさんにこの話をしたところ、
「私は賃貸人ではないから返還する義務は無い。賃貸人であるBさんに請求
してくれ」と取り合ってくれません。
敷金の返還義務はどちらにあるのでしょうか?
敷金返還Q&A1
をご覧ください。
Q2 敷金返還請求権の消滅時効