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まず、Aさんは、担保権設定の契約をしてないとのことですが、ある一定の要件を満たせば法律上当然に担保物権としての効力が発生する「法定担保物権」という法律の定めがあります。
法定担保物権には動産売買の先取特権があり、(民法321条)
Aさんが動産を売った場合に代金の支払いが無い場合は、その売った動産から(未払いの)代金、利息について優先弁済権を得ることができます。
では、Aさんの売った商品がBさんの占有下にあるか否かでわけて考えて見ましょう。
占有とは自己のためにする意思をもって物を所持することです。
動産がBの占有下にあった場合
もし、Aさんが売った動産がBさんの占有下にあった場合は、(Bの自宅やBの倉庫にある場合)動産に対して、担保権(動産売買先取特権)実行に基づく動産競売の申立てを管轄の裁判所に申し立てます。
動産売買先取特権の実行については
「Q&A6 動産売買先取特権実行」をご覧ください。
担保権の実行とは、担保権に基づいて担保物を換価する等により発生した対価を債権の弁済に充当することです。
強制執行手続には債務名義(取得するには訴訟手続き等の費用と時間のかかる手続を必要とする)が必要ですが、担保権実行手続は、担保権の存在を証する書面があれば申立てができます。
動産を取り返したい場合
上記の説明は、動産を競売することを申立て、落札された場合の代金から債権額の弁済を受けることができますが、動産そのものはAさんに戻ってきません。
また、必ずしもAさんの損失分にみあうだけの金額をAさんが得られるかは不明です。
(落札代金以上の金額は債権金額に充当されません)
Aさんが動産を取り返すことを希望する場合は、方法はあるのでしょうか?
「相手方に売り渡した動産を返還させる手続き」で法的手続きを後述しますが、
実務上、上記動産競売の申立手続きの流れからできる(可能性のある)方法を説明します
競売という形式は多くの人が入札に参加して一番高い価格で入札した人が落札するというイメージがあると思います。
しかし、動産競売では入札する人はほとんどいません。(価値が高く希少性のある特殊な動産を除く)
なので、その動産を取り返したい場合は、債権者自ら入札して落札することができる場合が多いです。(自己競落)
落札代金は「弁済金の交付」手続{債権者が2人以上で、債権者が落札代金で債権全額(債権者全員)の弁済を受けられない場合は「配当」手続という手続きで裁判所が作成した配当表に基づき各債権者が交付を受けます}により、債権者に戻りますが(手続費用が除かれる)、競売手続、執行手続に費用がかかるので、高額な動産でない場合費用倒れになります。
また面倒な手続や時間もかかります。
動産がBから第3者に譲渡された場合
Aさんが売った動産についてBさんが第3者に売った場合
Aさんの売った動産について「動産売買の先取特権」を実行することはできなくなります。(民法333条)
この場合、Bさんが第3者から転売代金を受け取っていない場合は、AさんはBさんの転売代金の請求権を差押えて、売却代金から弁済をうけることができます(民法304条)
詳しくは
「Q&A6 動産売買先取特権の物上代位」
をご覧ください。
動産が所在不明の場合
動産がどこにあるかわからない場合で、Bさんの他の財産も不明な場合には、優先弁済権の行使は困難です。
Bさんの他の財産の所在が判明している場合
Aさんは、Bさんに代金支払の請求権を有する債権者です。
Bさんの財産から弁済を受けるには、以下の法的手続きが必要です。
1、
Bさんを相手として代金請求の訴訟手続きを提起する
2、
確定判決(債務名義)を取得し、Bさんの財産に対して強制執行の申立てをする。
強制執行の申立てについて詳しくは「強制執行」をご覧ください。
なお、Bさんは行方不明ですので、法的手続きに伴う送達手続は「公示送達」による送達手続となります。
送達、公示送達については「送達手続
」をご覧ください。
相手方に売り渡した動産を返還させる手続
以上は、売買代金の弁済を目的とした各種手続を説明しました。
Aさんが、代金の回収よりも売り渡した動産を返してもらうことを優先する場合は、下記の手続が必要となります。
(動産がBさんの占有下にあることを前提とします。第3者が占有している場合はできません)
1、
Bさんに対して「代金の不払い」を原因として売買契約の解除を通知する。
2、
契約解除により、Aさんに所有権が復帰します。
Bさんを相手として動産について所有権に基づく返還請求の訴訟手続きを申し立てます。
3、確定判決(債務名義)を取得し、動産に対して強制執行の申立てをする。
具体的には、執行官に対して、動産の引渡しの強制執行を申し立てます。
動産執行は、執行官が債務者から動産をとりあげて債務者に引き渡す方法により行われます。
(民事執行法169条1項)
Bさんが行方不明の場合解除の通知ができないじゃないか?と思われるかもしれません。
意思表示の通知をしたい場合に相手が行方不明の場合は通知しようにも出来ません。
しかし、そうなると通知者(表意者)は相手方の一方的事情により、不利益を被る事があります。
例えば、契約の解除や、時効の中断等について、相手がいないばかりにできないとすると、解除が出来ないでいつまでも損害賠償や返還請求ができなかったり、消滅時効が完成する等(消滅時効については「消滅時効」をご覧下さい)、損失が発生します。
よって、民法で「意思表示は、表意者が相手方を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、公示の方法によってすることができる。」(民法98条1項)と定められています。
訴訟手続きの訴状の送達等、各種手続での債務者への送達は「公示送達」により行われます。
裁判所に申し立てて、「公示送達」という方法で相手方に「意思表示」が到達したとみなされる手続きでBさんが行方不明の場合、1の手続き「契約解除の通知」については「意思表示の公示送達」手続き(民法98条)により、2の訴訟手続きの訴状等の裁判所から送達される書面については「公示送達」による送達手続き(民事訴訟法110条〜)により、相手が行方不明でも手続きが可能となります。
※ 動産に対する強制執行手続きでの債務者への書面の送達手続きはありません
{債権差押(給与や銀行口座、売掛金を差し押さえる場合)の場合は債務者に対して「債権差押命令正本」の送達が必要となります。(民事執行法145条3項)
また、不動産の強制競売の場合、強制競売開始決定を債務者に送達しなければなりません(民事執行法45条2項)
強制執行手続きで送達が必要な場合にも「公示送達」の制度は準用されます。(民事執行法20条)}
送達手続、公示送達については「送達手続」をご覧ください。
行方不明者に対する意思表示の送達について詳しくは「意思表示の公示送達」をご覧ください。