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代金債権の支払義務がある(債務者である)B商店が支払う現金がないということですが、B商店に資産があるかないかについて考えます。
B商店の財産については以下のものが考えられます。
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売掛金{他の取引先等に対するB商店の代金請求権(債権)}
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B商店が銀行の預金口座に預金してある口座預金(預金払い戻し請求権=債権)
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B商店の保有している他の債権や動産・不動産
等が考えられます。
B商店に現金がなくても上記のような財産があれば、その財産を換価してもらい代金に充ててもらうか、B商店が応じなければ、それら財産を差押えることにより換価して代金に充てるかですが、後者の方法は、訴訟手続き等の法的措置手続を行わなければならず、時間と費用がかかります。
(詳しくは「訴訟手続き」「強制執行手続
」をご覧下さい)
取引先の相手方が代金を支払わない場合に、法的措置手続を取らないで債権回収をする方法としては以下の方法があります。
(「担保権の行使」については、強制執行手続を必要とします))
代物弁済
代物弁済とは「債務者が、債権者の承諾を得て、その負担した給付に代えて他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する」(民法482条)と法定されている弁済の方法です。
要件(要件とは一定の法律効果を生じる為に要求される事実、事実関係のこと)
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1 当事者間に債務が存在すること
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2 本来の給付と異なる給付がされること
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3 給付が弁済に代えてなされること
- 4 債権者の承諾があること
効果 代物弁済としての給付は弁済と同一の効力を有する(民法482条)ので債務は消滅します。
具体的には、例えば、B商店が現金は持っていないので、B商店所有の商品輸送用の軽トラックを代金の代物としたいとA商店に申し出てA商店の承諾があれば、代物弁済が成立し、A商店の代金債権(Bにとっては代金支払債務)は消滅します。
商品引き上げ
B商店が「A商店がB商店に卸した商品の代金」を支払わない場合は、その商品を返してもらうことも一つの方法です。
しかし、B商店が商品を返さないと言った場合は、商品をB商店の意思に反して取り返すことはできません。
窃盗罪(窃取した場合)や強盗罪(暴行・脅迫によって取り返した場合)の犯罪になってしまいます。
債権譲渡
債権譲渡とは債権を(通常、債務者以外の)第3者に移転させることです。移転されても債権の内容は変わりません。
債権は債権の性質が許さない場合を除き、譲渡することができます。(民法466条)
債権譲渡を債務者や第3者に対抗するための要件
※1対抗要件とは当事者間で成立した法律権利関係を第3者に主張する(効力を有する)ことので
きる法律上の要件のことです。
要件とは一定の法律効果を生じる為に要求される事実、事実関係のこと
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1債権者が債務者に対して「債権譲渡」する旨を通知する
- 2債務者が債権譲渡について承諾する
1か2をしなければ、債務者に対して、又債務者以外の第3者に対抗することができません
(民法467条1項)
上記の通知、承諾は確定日付のある証書(内容証明郵便等)でなければ第3者に対抗することができません。(民法467条2項)
具体的に言うと、例えば
A商店がB商店に商品を30万円で売った場合、B商店に対して30万円の代金(を請求できる)債権(=売掛金)を有していることになります。
そしてB商店がC商店に30万円の売掛金を有している場合、B商店はC商店に対して30万円の代金(を請求できる)債権(=売掛金)を有していることになります。
A商店がB商店から「B商店がC商店に対して有している額面30万円の債権」の譲渡を受けた場合、30万円の代金の支払いを受けたとして、実質、弁済を受けたと同様の効果があると考えることもできます。
よってA商店が了解すれば上記で説明した代物弁済と同様に弁済をうけたと同様の効果となります。
その場合、B商店からC商店に対して債権譲渡の通知書を(確定日付のある証書として=内容証明郵便等)出してもらうようにしておかないと第3者に対抗できなくなります。(民法467条2項)
相殺
相殺とは、当事者双方がそれぞれ相手方に債権を有している場合、双方の債権を対等額で債権を消滅させることです。(民法505条)
相殺の要件
相殺が出来る状態のことを「相殺適状」といいます。
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1 双方の債務が弁済期にあること{相殺しようとする者が相殺しようとする相手方の(自己に
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対する)債権が弁済期に無くても、自己の債権が弁済期に達していれば相殺できる}
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2 双方の債権が同種の目的を有すること
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3 債務の性質が相殺を許さないものでないこと
(民法505条1項)
具体的事例
A商店がB商店に商品を30万円で売った場合、B商店に対して30万円の代金(を請求できる)債権(=売掛金)を有していることになります。
もし、B商店が同じようにA商店に商品を20万円で売っていた場合、B商店はA商店に20万円の代金債権(Aさんにとって買掛金)を有しています。
そして双方とも代金が未払いの状態の場合、
A商店がB商店に「相殺」の意思表示を伝えると「相殺」の効力が発生します。
その結果、A商店はB商店に(差し引き 30−20=)10万円の債権を有していることになり、B商店はA商店に0円の債権、つまり債権を有していないことになります。
担保物権の実行・行使
債務の履行を確保する為の保証を担保といいます。
法律で定められている担保のための権利を担保物権といいます。
物権とは物を直接的排他的に支配する権利です。
担保物権とは、債務の履行を確保する為に(特定の物から優先弁済権を得られることを目的として)特定の物に対して(優先又は劣後の)弁済権を主張できる権利です。
そして、約定担保物権というのは、当事者間の意思表示によって発生する担保物権のことで、質権(民法342条〜)と抵当権(民法369条〜)が法定されています。
法定担保物権というのは、法律の規定により、当事者間で何らかの取り決めをしていなくても、当然に発生する担保物権です。
留置権(民法295条〜)と先取特権(民法303条〜)が法定されています。
留置権については「Q&A2 商事留置権
」の頁で説明しています。
先取特権とは、特別な債権を有する債権者が債務者の財産について、他の債権者に優先して自己の債務の弁済を受けられる権利です。(優先弁済権と言います)
動産売買の先取特権
動産売買の先取特権とは、動産を売った場合に、その代金及び利息について、その動産について発生する法定担保物権です。(民法321条)
動産とは、不動産(土地、土地の定着物)を除いた有体物のことです。
動産売買の先取特権についてはQ&A6「動産売買の先取特権
」で詳しく解説しています。
担保物権の実行又は権利の行使をすることにより担保物に関して(担保物権を有しない債権者に比較し)優先的に弁済を受ける権利を有することになります。
担保物権を実行する場合は担保権実行手続を行う必要があります。
(留置権の場合、担保物を留置する権利を行使する場合は実行手続は必要ありません。留置権に基づく競売申立を行う場合は実行手続となります。詳しくは「商事留置権」をご覧下さい)
保証人請求
AB間の売買取引に関して人的担保(保証人)がある場合、具体的に、B商店が代金を支払わない場合に、代金を支払う義務を負うとする保証契約をA商店とCさんが締結している場合は、A商店は、B商店が代金を支払わない場合にはCさんに代金を請求することができます。
その場合、連帯保証契約と通常の保証契約とでは以下のような性質の違いがあります。
共通の事項
主たる債務(AB間の取引でのBの代金支払債務)が消滅すると保証債務(保証人が保証する義務)も消滅します。
異なる事項
通常の保証契約の場合
催告の抗弁権
B商店がA商店に支払う代金の支払い日にA商店がB商店の支払いについて確認できなかった場合、A商店がCさんに代金の請求をしてきた場合、CさんはA商店に「先ずB商店に請求してください」ということができます(これを「催告の抗弁権」と言います。民法452条)
検索の抗弁権
A商店がCさんから「催告の抗弁権」を主張されて、実際にB商店に請求した場合でも、Cさんが「B商店には、A商店の代金を支払うだけの資力があること」及び「B商店に対して強制執行することが容易であること」を証明した場合には、A商店は先にB商店の財産に執行をしなければなりません(検索の抗弁権といいます。民法453条)
連帯保証の場合
Cさんが連帯保証人である場合には,
Cさんは「催告の抗弁権」と「検索の抗弁権」を有していませんから、A商店はB商店に請求せず、Cさんに請求でき、またCさんが「B商店が資力があり執行が容易なこと」を証明しても、Cさんの財産に強制執行することも可能です。(民法454条)