A14
代金を回収する手段のひとつとして相殺があります。
倒産についてはQ12「倒産
」をご覧下さい
相殺
相殺とは、当事者双方がそれぞれ相手方に債権を有している場合、双方の債権を対等額で債権を消滅させることです。
(民法505条)
相殺の要件
相殺が出来る状態のことを「相殺適状」といいます。
1 双方の債務が弁済期にあること{相殺しようとする者が相殺しようとする相手方の(自己に対する)債権が弁済期に無くても、自己の債権が弁済期に達していれば相殺できる}
2 双方の債権が同種の目的を有すること
3 債務の性質が相殺を許さないものでないこと
(民法505条1項)
本事例では、AさんがBさんに商品を30万円で売った場合、Bさんに対して30万円の代金(を請求できる)債権(=売掛金)を有していることになります。
もし、Bさんが同じようにAさんに商品を20万円で売っていた場合、BさんはAさんに20万円の代金債権(Aさんにとって買掛金)を有しています。
そして双方とも代金が未払いの状態の場合、
AさんがBさんに「相殺」の意思表示を伝えると「相殺」の効力が発生します。
その結果、AさんはBさんに(差し引き 30−20=)10万円の債権を有していることになり、BさんはAさんに0円の債権、つまり債権を有していないことになります。
破産手続き後の相殺
A商店がB商店に売った商品の代金が30万円(売掛金)であり、代金の支払期日が1ヵ月後だったとします。
そしてA商店はB商店から35万円の買掛金(A商店がB商店に35万円支払わなければいけない)があり支払期日が1週間後だったとします。
そして本日B商店について「破産手続開始」の決定があったことが裁判所から通知されました。
相殺の要件では、自己の相手に対する債権(売掛金)が弁済期にあれば、相手方の自己に対する債権(買掛金)が弁済期に達していない場合でも相殺ができることを説明しました。
A商店の買掛金が支払期日が来ていないのはよいとしても、売掛金の支払期日が1ヵ月後ですね。
通常では1ヵ月後に弁済期が来ないと出来ないのですが、債務者が破産手続の開始決定を受けた場合は、債務者は弁済期が1ヵ月後であるという「期限の利益」を主張することはできません。(民法137条1項)
よって、A商店はB商店について破産手続き開始が決定されたら、すぐ、相殺ができます。
相殺は一方的意思表示により効力が発生しますが、内容証明郵便で送付するか相殺の合意を書面で残して後日の紛争防止しましょう。
(相手方の)破産手続開始後における相殺の意思表示は破産管財人に対して行います。
相殺の禁止(破産法71条)
次の場合には、破産手続後の相殺は禁止されています。
1 破産手続開始後に債務を負担した場合
2 債務者(破産者)が支払い不能状態になった後に支払い不能であることを知ったうえで、@(破産
財産と)相殺する目的で債務を負担する契約やA破産者に対する債務者(この場合破産者が債
権者となる)の債務を引き受ける場合
3 債務者(破産者)の支払い停止後、支払い停止であることを知って債務を負担した場合(支払い
停止があったときに支払い不能でなかった場合を除く)
4 破産手続の申立て後に、破産手続を申立てたことを知って、破産者の債務を負担した場合
2から4の原因が下記の場合は相殺が可能です。(破産法71条2項)
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1 法定の原因(相続、合併等)であった場合、
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2 支払い不能であったことを債権者が知った時より前に生じた原因
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3 支払いの停止であったことを債権者が知った時より前に生じた原因
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4 破産手続開始の申立てがあったことを債権者が知った時より前に生じた原因
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5 破産手続開始の申立てがあったときより1年以上前に生じた原因
各種倒産手続での相殺を行使できる時間的制限
民亊再生手続
相殺権の行使は債権届出期間満了までにしなければなりません。
(民事再生法92条1項)
会社更生手続
相殺権の行使は債権届出期間満了までにしなければなりません。
(会社更生法48条1項)
破産手続
破産手続の場合には、相殺行使可能期間について法律上の制限はありません。
しかし、実質(実務上)最後配当(配当とは破産者の財産を債権者に公平に割り当てること)に関する除斥期間の満了までに行使しないと、破産者の財産は清算されてしまうので、相殺の行使は不可能となります。
又、破産管財人は「反対債務(本事例ではA商店の債務)を有している債権者(A商店)」(相殺行使ができる債権者)に対して債権調査期間経過後(又は債権調査期日終了後)に1ヶ月以上の期間を定め、その期間内に相殺を行使するかどうか確答すべき旨を催告することができます。
{(Aさんにとって反対債務である)「BさんのAさんに対する債権」の弁済期になっていないときは催告できません}
上記期間内に確答がなかったときには、その債権者は相殺の効力を主張することができなくなります。(破産法73条)
参考条文
(破産管財人の催告権)
第七十三条
破産管財人は、第三十一条第一項第三号の期間が経過した後又は同号の期日が終了した後は、第六十七条の規定により相殺をすることができる破産債権者に対し、一月以上の期間を定め、その期間内に当該破産債権をもって相殺をするかどうかを確答すべき旨を催告することができる。ただし、破産債権者の負担する債務が弁済期にあるときに限る。
2
前項の規定による催告があった場合において、破産債権者が同項の規定により定めた期間内に確答をしないときは、当該破産債権者は、破産手続の関係においては、当該破産債権についての相殺の効力を主張することができない。