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相手方に貸した物(動産)を返還させる手続
民法では、相手方に無償で物(消費されるものでない)を貸す(借りる)行為を「使用貸借」{民法593条}
相手方に有償で物(消費されるものでない)を貸す(借りる)行為を「賃貸借」(民法601条)としています。
消費される物(食物や金銭、消耗品)を貸す(借りる)行為は「消費貸借」(民法587条)としています。
そして当事者が返還の時期を定めなかった場合は、下記の決まりがあります。
使用貸借の場合
当事者が返還の時期を定めなかったときは、借主は、契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わった時に、返還をしなければならない。
ただし、その使用及び収益を終わる前であっても、使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、貸主は、直ちに返還を請求することができる。(民法597条2項)
当事者が返還の時期並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも返還を請求することができる。(民法597条3項)
賃貸借の場合
当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。
この場合においては、次の各号に掲げる賃貸借は、解約の申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。
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1 土地の賃貸借 一年
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2 建物の賃貸借 3ヶ月
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3 動産及び貸席の賃貸借 1日
(民法617条)
借地借家法適用期間
ただし、借地借家法により、上記の申し入れから終了までの期間は以下のとおりになっています。
建物の賃貸借については6ヶ月の期間(借地借家法27条1項)
建物の賃貸借については借地借家法が適用されます。
借地借家法の適用がない「一時使用目的建物賃貸借(契約者が一時使用の限定目的で賃貸借する)」(借地借家法40条)については民法617条の適用があることになります。
建物を所有する目的の土地の賃貸借について借地借家法が適用され、期間を定めなかったとしても30年となります(借地借家法3条 借地権の存続期間は30年とする)」)
また、期間を定めない特約をしても無効となります(借地借家法9条)
建物を所有する目的外の土地の賃貸借(駐車場、資材置き場)は民法617条の適用になります。
使用貸借の場合は、目的を定めた場合で使用収益期間を経過する前においては使用貸借契約を解約する通知を借主に対してしなければなりません。
(目的を定めなかった場合はすぐ返還請求することが出来る)
賃貸借の場合は民法617条の制約下で、相手方に解約の申し知れをすることができます。
賃貸物返還請求手続手順
上記の法令に基づいて、貸借していた相手方に対して返還請求をしたところ、相手方が返還しなかった場合、又は相手方が行方不明の場合、貸借についての返還請求手続は下記の手順となります。
(使用貸借の場合で目的を定めていなかった場合は1の手続は不要です)
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1、
相手方に解約の通知をする。又は契約解除の通知をする。(賃貸借の場合、賃料の不
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払い等が原因となります)
- 2、所有権に基づく返還請求(又は貸借契約終了に基づく目的物返還請求)の訴訟提起をす
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る。
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3、確定判決(債務名義)を取得し、動産(テレビ)に対して強制執行の申立てをする。
具体的には、執行官に対して、動産の引渡しの強制執行を申し立てます。
「動産の引渡しの強制執行」は、執行官が債務者から動産をとりあげて債務者に引き渡す方法により行われます。(民事執行法169条1項)
相手方(Bさん)が行方不明の場合、1の契約解除の通知については民法98条で定められている「意思表示の公示送達」の方法により解除通知をした効果が認められます。
しかし、「解除通知だけをすること」が目的でなく、貸した物を取り返すことが本来の目的であれば、返還請求の訴訟手続き(上記2の段階の手続)が必要となります。
訴訟手続きで、訴状に「解除の意思表示」を記載すれば、訴状が公示送達されることで、解除通知をした効果が生じます。(民事訴訟法113条)
よって、「意思表示による公示送達」(上記1の段階の手続)による手続を経ずに2の訴訟手続きから返還請求の手続をすることができます。
訴訟手続きの訴状の送達等、各種手続での債務者への送達は「公示送達」により行われます。
裁判所に申し立てて、「公示送達」という方法で相手方に「意思表示」が到達したとみなれます。
送達手続、公示送達については「送達手続
」をご覧ください。
行方不明者に対する意思表示の送達について詳しくは「意思表示の公示送達
」をご覧ください。
建物賃貸借による建物明け渡し(建物を返してもらう)の場合は、「建物明け渡しサイト」をご覧下さい。
建物明け渡しに関する、手続や方法について、わかりやすく解説しています。
参考条文
(動産の引渡しの強制執行)
第百六十九条
第百六十八条第一項に規定する動産以外の動産(有価証券を含む。)の引渡しの強制執行は、執行官が債務者からこれを取り上げて債権者に引き渡す方法により行う。
2
第百二十二条第二項、第百二十三条第二項及び第百六十八条第五項から第八項までの規
定は、前項の強制執行について準用する。
第百六十八条
不動産等(不動産又は人の居住する船舶等をいう。
以下この条及び次条において同じ。)の引渡し又は明渡しの強制執行は、執行官が債務者の不動産等に対する占有を解いて債権者にその占有を取得させる方法により行う。