譲渡担保は、法令に定めがあるのではなく、実際上の必要から行われていて、判例で認められているものです。
「譲渡担保」とは担保にしようとする債務者所有物の所有権を債権者に移転し、履行期日に弁済すれば、債務者に返還するという担保制度です。
譲渡担保については法令に定めが無く判例で担保的権能が認められている所有権の移転と考えられます(担保物権であるという考えもあります)
担保権の実行
担保権の実行とは、担保権に基づいて担保物を換価する等により発生した対価を債権の弁済に充当することです。
法令で定められている担保物権については、民事執行法の規定に従って行います。具体的には、管轄の裁判所や執行官に担保権に基づき競売手続(担保物が動産や不動産の場合)や差押命令(担保物が権利である場合)の申立等を行います。
担保権の実行は、民事執行法に基づいて裁判所に申し立てて行う手続ですが、譲渡担保の実行は、法令に基づいて裁判所に申し立てるのではなくて、私的実行による手続となります。
実行の通知
譲渡担保の実行は、民亊執行法に基づき裁判所に申し立てる法的な手続ではなく、私的実行となります。
具体的には、債権者(本事例でいうとA)が債務者(B)に実行の通知を行い、通知が債務者に到達したときに、譲渡担保による制約のある(債権者が履行期日前に譲渡保権設定者に無断で担保物を処分した場合は損害賠償責任が発生する)所有権から制約のない所有権を取得します。
ただし、清算する必要がある場合{譲渡担保物の価額が債権者の(履行されていない)債権額よりも上回る場合}清算が完了した場合に完全な所有権を取得します。
担保物が不動産の場合は、譲渡担保を設定するときに「譲渡担保」を登記原因として所有権移転登記をしているケースが多いですから、実行と言っても債務者の協力は不要で、清算して担保不動産から弁済に充当できます。
担保物を債務者が占有※1
している場合には、譲渡担保の実行に当たっては債務者に引渡しを請求することになります。
もし、債務者が引き渡しに応じない場合は、所有権に基づいて引き渡し請求の訴訟手続きを行うことになります。
(債務者が占有している担保物を債務者の承諾無く、持ち出す行為は犯罪行為となります)その際に、債務者が担保物を処分する可能性がある場合については「処分禁止の仮処分」※2
(係争物に関する仮処分)の申立等の保全処分を裁判所に申し立てる必要があります。
※1
占有とは自己のためにする意思で物を所持する行為をいいます。
※2
処分禁止の仮処分とは金銭債権以外の権利を対象として、将来の(債務名義による)権利の実行を保全するために現状の維持を命じるものであり、その現状の変更により、債権者の権利の実行が不能又は著しく困難になるおそれがある場合に発令されます
(民亊保全法23条1項)
本事例の場合は、担保物である商品の「占有移転禁止」(他の第3者に占有が移転されないようにする)若しくは「処分禁止」の仮処分を求めることになります。
清算
清算の方法としては、処分清算型方式と帰属清算型方式があります。
処分清算方式という方法は、債権者が担保物を換価し(金銭に換えて)その代金をもって債務の弁済に充当し、代金>債権額であれば残額を債務者に返還します。
帰属清算方式という方法は、担保物を適正に評価し、評価額>債権額の場合、債務者に債権額と評価額の差額を返還し、所有権を債権者が取得します。
譲渡担保の実行は、必ず清算をしなければなりません。清算せずに、担保物を自己の所有にしてしまうことは出来ません(昭和46年3月25日最高裁判決)
同時履行債務者が担保物を占有している場合、債権者が譲渡担保の実行を通知し、債務者が占有している担保物を引き渡し請求をした場合に、代金>債権額の場合は、債務者は適正な清算金の支払いと引き換えに担保物を引き渡すことを主張できます。
{債務者が債権者からの(双務契約での一方の債務履行請求)請求に対して、○○(α)をしないと○○(β)をしない(請求に応じない)と請求を拒否できる主張が「同時履行の抗弁」と呼ばれます。αとβの行為が同時に履行されることが公平である}
(「昭和46年3月25日最高裁判決」により、担保物の引渡しと清算金の支払いの関係が同時履行の関係であると判示されました。)
同時履行の抗弁
民法533条双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。
ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。
本事例での具体的行使本事例の場合、AさんがB商店に納品した商品について譲渡担保契約を設定しているので、AさんがB商店に担保権実行を通知し、B商店の承諾を得て、商品の引渡しをうけます。
そして、担保物を評価するかもしくは換価して、Aさんの債権額と担保物の価値からB商店に返還する金額があれば、B商店に返還します。
譲渡担保と他の担保物権の実行との相違
抵当権や質権、先取特権等法令に定めのある担保物権の実行としては、民事執行法に基づいて、裁判所に申立て、担保物によっては{不動産競売手続き(任意競売)}のように複雑で、手続終了まで長期間かかり、費用もかかる手続があり、また不動産競売手続ほどではなくても、(動産競売手続、債権差押手続)面倒で費用や時間がかかります。
それでも担保権の実行の場合は、債務名義を取得する必要が無いため、担保が無い場合で強制執行を行う場合に比べ、費用や時間は大幅に短縮されます。
債務名義とは「債権が確かに存在することを公に証明した書面」のことです。
民事執行法22条により定められています。
しかし、譲渡担保の場合は、譲渡担保契約時に所有権を既に移転しているため、担保権の実行では、
(例えば不動産を譲渡担保の担保物にしている場合で、既に所有権移転の登記済みの不動産の場合等)
裁判所に申し立てる必要も無く、実行の通知をするだけで簡易迅速に担保の実行(担保物を換価して弁済に充当する)ができます。
(債務者から担保物の引渡しを要する場合は、即実行できない場合もあります)
法令で定められている担保物権に比較してはるかに簡易迅速に弁済権の行使ができます。
このことは譲渡担保のメリットのひとつです。